東京地方裁判所 平成6年(ワ)20802号 判決
原告
株式会社グリーンキヤブ
ほか一名
被告
渡辺淳こと秋葉淳
主文
一 原告らの被告に対する別紙交通事故目録記載の交通事故を原因とする損害賠償債務は、原告ら各自について、金一一万一一三七円及びこれに対する平成四年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を超えて存在しないことを確認する。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その一を原告らの、その余を被告の各負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告株式会社グリーンキヤブに対して、金五万八三四四円及びこれに対する平成四年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らの被告に対する別紙交通事故目録記載の交通事故を原因とする損害賠償債務は、原告ら各自について、金五万四〇〇三円及びこれに対する平成四年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を超えて存在しないことを確認する。
三 訴訟費用の被告の負担
第二事案の概要
一 事案の概要
本件は、タクシーの運転者が道路をUターンするため、第二車線付近から右折して第三車線付近に向かつたところ、同車線の後部から走行してきた被告が所有し、運転する乗用自動車と接触し、双方に物損が生じたことから、
1 タクシー会社が被告に対してタクシーの物損を求めるとともに、
2 被告がその所有する乗用自動車に関する物損について多額の損害賠償額を主張するとして、タクシーの運転者及びタクシー会社が、被告を相手に債務不存在確認訴訟を提起した事案である。
二 当事者間に争いのない事実
1 本件事故の発生
別紙交通事故目録に記載のとおり
2 責任原因
本件事故は原告舘内栄(以下(原告舘内」という。)の過失によるものであり、同原告は民法七〇九条に基づき、また、原告株式会社グリーンキヤブ(以下「原告会社」という。)は、原告舘内の雇用者であるから、民法七一五条に基づき、それぞれ、被告に対し、本件事故により被告が受けた損害を賠償すべき義務を負う。
3 原告車両の修理代金
本件事故による原告車両の修理代金は一七万八四八〇円である。
三 争点
1 被告の責任原因及び過失相殺
(一) 原告ら
原告車両が第三車線を横切る寸前に、被告の著しい前方不注視も加わつて本件事故が発生したから、三割の過失相殺を主張する。
(二) 被告
原告車両はUターン禁止場所で転回したのであり、本件事故は、原告舘内の一方的な過失によるものである。
2 原告会社の損害
(一) 原告会社
前記原告車両の修理費に二日間の休車補償費一万六〇〇〇円を加えた一九万四四八〇円が原告会社の損害であるところ、被告の過失分三割である五万八三四四円を請求する。
(二) 被告
右金額を争う。
3 被告の損害
(一) 被告
被告車両の修理のために一〇万二八九七円を要した。
また、代車料として、修理期間一週間分として一四万円のほか、原告らが損害を賠償しないために被告車両を引き取ることができず四〇日間代車を延長して借りざるを得なかつた。この延長分八〇万円と四七日の代車料の消費税を含め、合計九六万八二〇〇円が代車料相当額である。
(二) 原告ら
被告車両の損害は、フロントバンパーの修理等で済み、その費用は四万七九〇〇円であり、三日分の代車費用二万七〇〇〇円とこれらに要する消費税二二四七円を加え、総額七万七一四七円である。
第三争点に対する判断
一 被告の責任原因及び過失相殺
甲一の1、三、五、六、証人石丸健男、被告本人に弁論の全趣旨を総合すれば、本件事故のあつた道路は、片側三車線の道路であるが、深夜の繁華街である歌舞伎町を横切ることから、第一車線左側には駐車車両が、また、第三車線右側には右折車やUターン車がいずれも連なつており、直進車は第一車線と第二車線との車両通行帯境界線(以下「境界線」という。)上及び第二車線と第三車線との境界線上を渋滞しながら走行していたこと、本件事故は、同道路と狭路との交差点内で生じたこと、原告車両は、第一車線と第二車線との境界線上を走行中、同交差点手前の横断歩道上で客を取るため比較的長時間停車したこと、被告は、被告車両を運転し、原告車両の後ろを走行していたところ、クラクシヨンを鳴らしたが、なおも原告車両は停車したままであつたので、第二車線と第三車線との境界線上に進路を変更し、直進を開始したこと、原告舘内は、客の指示に基づきUターンを実施し、被告車両の前方を斜めに塞ぐように進行したこと、その直後、原告車両の右後部扉からリアーフエンダーにかけての部分と被告車両の左前部バンパーとが衝突したことが認められる。被告は、本件道路がUターン禁止場所であると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
右認定事実に基づき、本件事故に関して被告に過失があるかどうかを検討すると、本件全証拠によるも原告車両がUターンに先立ちウインカーを出したかどうかは明らかではないが、仮に、ウインカーが出ていたとしても、他の車両を運転する者にとつては、停車後の発進の合図と受け取るのが通常であつて、渋滞中の片側三車線の道路において第一車線と第二車線との境界線上からUターンを敢行することは予測できないというべきであり、また、原告車両は、直進中の被告車両の直前にUターンのため進路を変更したのであつて、被告が前方を注視していたとしても、なお、本件事故は生じていたものと考えられるから、本件事故は、原告舘内の一方的な過失に起因するものというべく、被告には何らの過失も認めがたい。
そうすると、被告は原告車両の本件事故に基づく損害を賠償する義務はないし、また、原告らの過失相殺は理由がないこととなる。
二 被告の損害
1 修理代金
甲五、証人清水映彦、被告本人によれば、被告は、被害車両の修理を有限会社カールームたーぼ(以下「訴外会社」という。)に依頼し、修理代として九万九九〇〇円(内訳 フロントバンパー五万五〇〇〇円、左ウインカーレンズ一三〇〇円、左スモールランプレンズ六〇〇円、バンパーフレーム修理一万二〇〇〇円、部品交換作業料三万円、修理期間七日)及びその消費税相当額の請求を受けたことが認められる。
他方、甲三、八、九、証人石丸健男によれば、原告会社は、被告車両の修理の見積りを日本駐車ビル株式会社の日駐整備工場に依頼したところ、四万七九〇〇円(内訳 フロントバンパー二万六〇〇〇円、左ウインカーレンズ一三〇〇円、左スモールランプレンズ一六〇〇円、バンパーフレーム修理一万二〇〇〇円、部品交換作業料七〇〇〇円、修理期間三日)及びその消費税相当額と見積もられたことが認められる。
この点、証人清水映彦は、フロントバンパーの代金は二万六〇〇〇円であるが、訴外会社が請求するフロントバンパーの代金中には被告車両を部分塗装した代金も含まれていると供述する。しかし、被害車両の本体の塗装を実施したのであれば当該項目として請求がされるはずであり、これをバンパーの代金に組み入れて請求すべき特段の事情も窺えないこと、被告は本件訴訟において塗装について一切主張していないこと、及び日駐整備工場では塗装の見積りをしていないことからすると、右供述のみからは、本件事故により被告車両に部分塗装を必要とする損傷が生じたと認めることはできない。
また、訴外会社の請求中には部品交換作業料として三万円が計上されているが、フロントバンパーの脱着、左ウインカーレンズ及び左スモールランプレンズの交換のための工賃としては著しく高価であり、日駐整備工場の見積りによる七〇〇〇円が相当である。
そうすると、被告車両の修理に要する費用は、日駐整備工場の見積りどおり四万七九〇〇円及びその消費税分一四三七円と認めるべきである。
2 代車費用
甲五、被告本人によれば、被告は、被害車両の修理期間中も選挙活動等のため代車を必要とし、訴外会社から被告車両と同種の車両を、一日当たりの代車料を二万円及びその消費税として、七日間借り受けたことが認められる。
他方、前認定のとおり日駐整備工場は被害車両の修理期間を三日間としており、証人清水映彦も塗装を必要としないのであれば修理期間としては三日間で足りると供述する。そして、前判断のとおり、被告車両の部分塗装の必要性が認め難いことから、本件事故と相当因果関係のある代車料は、一日当たり二万円の三日分である六万円及びその消費税一八〇〇円ということとなる。この点、原告らは、代車料の単価を一日当たり九〇〇〇円であると主張し、甲四の記載中、これに沿う部分もあるが、代車の必要性が選挙活動等にあることも考慮すれば、被告主張の単価も止むを得ない(甲四によれば、エステイマ四WDでは一日当たり一万九〇〇〇円である。)というべきであつて、原告らの右主張に理由がない。
ところで、被告は、原告らが損害を賠償しないために被告車両を引き取ることができず四〇日間代車期間を延長したとして、この延長分八〇万円とその消費税分も代車料に含まれると主張し、証人清水映彦、被告本人の供述はいずれもこれに沿う。しかし、仮にこれら供述を採用して右延長借用の事実を認めたとしても、同期間の代車料は本件事故とは相当因果関係を欠く損害であるといわなければならない。すなわち、物損事故の加害者が早期の賠償をしないため、被害者が修理代金を払えず、このために修理業者から被害車両について留置権を行使された結果、代車期間が延長したとしても、民法四一九条に定める金銭賠償の特則の趣旨からして、交通事故と相当因果関係のある代車料は、相当の修理期間中のものに限られるというべきであるからである。なお、加害者が被害者を困惑させるためことさら賠償金を支払わない等の事由があるときは、被害者はそのことを理由とする不法行為の損害賠償として延長分の代車料を請求することができる余地があるとしても、右損害賠償は交通事故による損害賠償とは別個の不法行為に基づくものであり、被告において反訴等によりこの点の賠償請求をしていない本件にあつては、延長分の代車料は、本件訴訟の審理の対象外のものであるというべきである。
3 以上のとおりであり、被告が本件事故により被つた損害の合計は、一一万一一三七円である。
第四結論
以上の次第であるから、原告らの被告に対する本件請求のうち、原告車両の損傷を理由とする損害賠償請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がないから棄却すべきであり、また、被告車両の損傷に関する債務不存在確認請求は、原告らの被告に対する別紙交通事故目録記載の交通事故を原因とする損害賠償債務が一一万一一三七円及びこれに対する本件事故の日である平成四年七月七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を超えて存在しないことを確認する限度で理由があるが、その余の請求は理由がないから棄却すべきである。
(裁判官 南敏文)
(別紙) 交通事故目録
事故発生の日時 平成四年七月七日午前〇時三〇分ころ
事故発生の場所 東京都新宿区歌舞伎町二丁目先路上
原告車両 普通乗用車・練馬五五け三二四四(原告舘内栄運転)
被告車両 普通乗用車・品川三四も二六〇二(車名・バネツトデイーゼルワゴン。被告所有及び運転)。
事故の態様 原告舘内栄が、乗客指示の行き先に向かうべく、前記道路第二車線付近から時速約一〇キロメートルでUターンするため、第三車線付近を横切ろうとしたとき、同車線をほぼ同じ速度で後方から直進してきた被告車両の前方と原告車両の右後部ドア部を接触させ、両車両ともに物損が生じた。